生まれなかった子の供養をし、ふたりで穏やかな時間を過ごす。
そうして彼女の気持ちに心を砕いてやることで、ギュンターは自分自身も癒されていくのが分かった。
『体が落ちつけば、また子はできる。俺は焦っていないし、しばらく君とふたりの時間を大切にするのはいいことだろう?』
彼女に伝えたい言葉は、そのままギュンター自身も言われたい言葉だった。
それを言葉に出すことで、自分もまた子を失って傷ついていたことを自覚できたし、いつかまた子を持つ希望を失わずにいられた。
どうやら自分は、自らの気持ちに対しては鈍感であるらしいと、ギュンターはこの時ようやく気が付いたのだ。
やがて、体が回復してきたコルネリアは、徐々に街にも出れるようになった。
懇意にしている領内の子爵夫人との茶会も開くようになり、コルネリアも心の平安を取り戻したかに見えた。
しかし元気になれば、今度は世継ぎを望む母の圧力が彼女を襲う。
結婚して二年も経つのだし、流産からも一年経つ、と言われれば確かにそうなのだが、望みすぎればコルネリアにストレスを与えてしまう。
ギュンターは母に『よけいなことは言わないように』ときつく告げていたが、不在の間の行動までは制限できない。
そんな中でのクラウスからの呼び出しだ。
『重要な相談があるので、少人数の供のみで東の宮まで来てほしい』
そんな密書めいたものを第二王子からもらっては、行かないわけにもいかない。
ギュンターはコルネリアになるべく部屋から出ないように、出来れば母とも顔を合わせないようにと強く言い聞かせ、後ろ髪を引かれる気持ちで屋敷を出ていったのだ。



