我の強くない人間が我の強い人間と一緒にいるのは、疲れるものだ。相手に悪気があろうとなかろうと、呑み込まれて自分が自分らしくいられなくなる感覚がある。

コルネリアは芯が強い。そこが気に入って結婚を決めたともいえるのだが、日常では控えめな面ばかりが表に出る。
我の強い母の主張に対してずっと笑顔で応対し、ギュンターにも一度も愚痴を言うことはなかった彼女が、内心でどれほど疲弊しているのか、ギュンターは気遣ってはいたものの分かってはいなかったのだ。

それが分かったのは、結婚して一年ほどが経った頃だ。
コルネリアに懐妊の兆しが表れたのだ。

だが、喜びはすぐに悲しみへと変わった。
ギュンターは、仕事で訪れていた王宮でコルネリアの流産の知らせを聞かされたのだ。

慌てて屋敷に戻り医師を追及したが、原因は分からなかった。
物理的な衝撃を受けてはいなかったし、食事も特におかしなところはない。精神的なストレスが原因ではないか、というのが医師の見解だった。

言われてみれば、彼女にかかる負担は相当あったはずだ。

気候さえも違う慣れぬ屋敷での生活、自分の意思を前面に押し出してくる姑との暮らし。
コルネリアはずっと笑顔だったが、決して楽でも楽しくもなかっただろう。

この流産にはコルネリアもショックを受け、動揺を隠しきれず、社交のすべてを辞めてふさぎ込むようになってしまった。

母も気遣ってはいるようだったが、『世継ぎが欲しい』という思いはどうしても透けて見える。
せめてコルネリアに笑顔が戻るまではと、ギュンターは外出せねばできない仕事は父に任せ、出来るだけ屋敷にいるようにしていたのである。