いつの間にか追ってきた従者と家庭教師がそばに立っていた。


「……フリード様、見つけましたよ」


彼らはふたりをクレムラート家に連れて帰り、温かい風呂とベッドで休ませた。


ディルクは数多くを語ることはせず、フリードが聞いた程度のことをポツリと話すとあとはふさぎ込んでしまった。

ドーレ邸には人が送られ、ディルクの供述通りに夫人と令嬢の遺体が見つかり、処理されたという。
拘束中のドーレ男爵は、その話を聞いて獄中で自殺を図ったというが、ディルクはまだ何も知らない。
回復を待ってゴードンから話すという約束になっており、フリードも口をつぐんでいた。


天涯孤独となったディルクの身請け先としては、ドーレ男爵夫人の実家が有力だった。男爵夫人の兄は難色を示したが、クレムラート領の当主を継いだゴードンの説得に折れ、葬儀が終わったあたりで、ディルクを引き取るということで話はまとまりつつあった。


ある日、フリードがディルクを見舞うと部屋に彼の姿はなかった。

使用人に聞き探し回ると、屋敷の裏で剣を振るっている彼を見つける。しかもどこから探し出したのか、練習用の木刀ではなく、真剣だ。


「なにしているんだ! ディルク」

「なにって、……稽古ですよ」


稽古用の釣り下げた丸太を、切りつけていく。


「なんで稽古なんか」

「父を殺したいんです」

「ディルク?」

「ドーレ家はもう終わりです。僕の将来だって先はない。家族の未来を奪い、家名に泥を塗った父に復讐したい。だからもっと強くなりたいんです」


勉強が好きだと言ったディルクが、瞳を曇らせてただただ復讐のために生きようとする姿に、フリードはいたたまれない気持ちになる。