「お願いだよ、ディルクを戻して」
「ごめん。フリード。無理だよ。その代わり俺がここにいるよ。これからは兄上と二人で屋敷を切り盛りしていくことになったんだ」
「叔父上は仕事でここに住むんでしょう? 違うんだ。ディルクは俺の友達なんだよ」
「無理を言うもんじゃないよ」
どうあっても、動いてくれなさそうな叔父にしびれを切らして、フリードは立ち上がる。
「フリードどこに行くんだ」
「おばあ様のところ」
こうなれば直談判するしかない。
どれほど怒られようと、なじられようと、自分にはディルクが必要なのだ。
「おばあ様!」
執務室に入ると、そこにいたのは父親だった。
たくさんの書物が机の上に並べられていて、彼はそれを一冊ずつチェックをしているようだった。
「……おばあ様は?」
「おばあ様は外出中だよ。おじい様のいないこの屋敷は辛いようでね。別荘地を巡りに行っている」
「そんな。……じゃあ誰に言えばいい? 父上。ディルクを俺のもとに戻してください。お願いだよ、俺から友達を奪わないで」
うだつの上がらない父のことを、フリードは普段、避けていた。
こんな風に正面から顔を見て、願うことなど、本当に久しぶりのことだ。
「フリード」
「お願いだよ、父上」
父はフリードの真摯な瞳に気おされたようだったが、しばらく逡巡したあと、腰をかがめてフリードに目線を合わせた。



