「嫌だ。ディルクは俺の友達だ」

「フリード、離れなさい。もうドーレ家はおしまいよ。領主をひき殺しておいて、ただで済むなんて思わないでしょうね。ましてそんなスキャンダルまであれば、爵位をはく奪することなどたやすいわ」


フリードは憎々し気なリタの瞳から、ディルクを守りたかった。
できるだけ体を広げてディルクの前に立つが、ディルクのほうが背が高いので、彼にはきっとリタから注がれる軽蔑のまなざしがしっかり見えていただろう。


「母上、まずは男爵に話を聞かなければ。決めつけるのはよくありません」


ゴードンがなだめようとしたが、リタは力いっぱいその手を振り切って、叫んだ。


「うるさいわね。父親が死んだのよ? あなた、なんでそんな落ちついていられるの。あなたがもっと仕事をして、あの人を助けていたら、こんなことにならなかったかもしれないじゃない。フリードもよ! あなたのおじい様でしょう。ドーレ家の息子を庇うより、おじいさまを失ったことを悲しんだらどうなの!」


フリードは何も答えられなかった。唇を噛み締めて、ただ祖母の声を体に受け、震え続ける。けれどディルクの前からは一歩も動こうとはしなかった。

フリードの背にそっと手をのせたのは、ディルクだ。


「……フリード様。ありがとうございます。でも、僕はここを出ます」

「ディルク!」

「リタ様のお怒りはごもっともです。とにかく父と話をしないと。一体どうなっているのか……」

「ディルク、私も馬車で現地に向かう。一緒に行こう」


ゴードンの申し出にディルクは頷き、すぐさま荷物をまとめに部屋に戻った。
フリードは「俺も行く!」と言いはったが、今回ばかりは聞き入れられなかった。

そのままフリードは閉じ込められ、事の収拾がつくまではと食事も部屋に運び込まれた。
何度か逃げようとしては、祖母からお小言を食らう日々が続いた。

戻ってきた父も何も教えてはくれない。
ディルクからも、一通の手紙もないまま、二か月が過ぎていった。