不貞腐れながらベッドにもぐってしばらくすると、外から馬の駆ける音が聞こえてくる。
もう夜なのに、と半身をと起こした時、屋敷の玄関扉が勢いよく開かれた音がした。
「……大変ですっ、旦那様が、事故に遭われました」
エントランスホールで張り上られた伝令の声に、フリードの耳を疑った。続けて聞こえてきたのは、当主の妻であり、フリードには祖母に当たるリタの悲鳴だ。
「旦那様は……お亡くなりに……」
「嘘よ! どういうことなの? 一体何が起こったというの」
「一体何事だ」
すぐに父のゴードンも出てきて、屋敷内は騒然とし始めた。あまりの騒がしさにフリードはじっとしていられなくなった。そっと廊下に出ると、同じようにディルクが扉の陰から顔を出していた。
フリードは手招きし、ふたりで並んで二階の欄干から階下の騒動を覗いた。
中央にリタ。そしてゴードン。それぞれの従者が脇から支えるように立っている。
伝令はふたりの前で膝をつき、自身が見てきたことを報告していた。
「ドーレ男爵領の北側でものすごいスピードを出した馬車と激突し、頭を強く打ったようです。すぐに医師が呼ばれたのですが……」
ディルクの欄干を握る手がびくりと動いたのを、フリードは見逃さなかった。
男爵領とは、クレムラート領の西側の一部で、ドーレ男爵に管理を任せている一地区のことだ。
「何故ドーレ男爵領になどいるの。今日は北へ視察に行き、そのまま別荘地へ泊まるのではなかったの? ドーレ男爵領は西でしょう」
「それはその……。お忍びの……なんといいますか」
「また女遊びね? 馬鹿な人! で、ぶつかった馬車に乗っていたのは誰なの?」



