悔し紛れにディルクの背中にタックルする。


「俺は……ディルクと一緒に行きたかっただけだっ」


母親もアルベルトもいなくなった屋敷は、子供のフリードにとって冷たく寂しい場所となってしまった。
けれど、ディルクが現れてからは違う。屋敷は秘密がたくさん詰まったワクワクする場所になったし、広い庭も広がる畑も、のびのびと両手を広げられる心地よい場所になった。
一緒に笑ったり怒ったりする人間がいるだけで、見える景色はこんなにも変わるものなのだと、フリードは不思議に思ったものだ。

そのディルクが、自分の知らない世界を楽しんでいるのが悔しかった。


言ってから恥ずかしくなって、フリードはそっぽを向く。ディルクは本で顔を隠していたが、やがて堪えきれなくなったらしく笑いだした。


「なっ、笑うなよっ」

「だ、だって。まるで恋の告白みたいじゃないですか。図らずもドキドキしてしまいましたよ」

「違うっ、俺にそんな趣味はない」

「わかっていますよ」

「二人が仲がいいのはよくわかりました。フリード様がディルクくんのように学びたいと思っていることもね。けれどあなた方には二つの年齢差があります。今ディルクくんが知っていることをフリード様が知らないのは当然のことなんですよ。焦りは禁物です」


ゲルトにたしなめられてその場は頷いたものの、負けん気の強いフリードは、それからディルクに追いつけるよう死に物狂いで勉強した。