伯爵夫妻の内緒話【番外編集】



そうして、六年の時が過ぎる。

十二歳のフリードと十四歳のディルクの関係は変わらぬままだったが、ディルクは時々ゲルト氏に連れられ、中央領に出向くことが増えていた。

貪欲に知識を吸収するディルクにとっては、偏った趣味のクレムラート家の書庫では物足りないことも多かった。それを見かねたゲルトが、つてを頼って王立図書館へ連れて行ってくれたのだ。


「俺も行きたいのに!」

「フリード様にはつまらないと思いますよ。それに、本当に静かにしていないといけないんです」

「そうですよ。走り回らないとお約束してくださるなら連れて行って差し上げます」


ディルクとゲルトの両方からたしなめられ、フリードは不貞腐れた。

絶対に静かにしているから、と約束し連れて行ってもらった王立図書館は、吹き抜けの二階立てで上から下までびっしり本が詰まっていた。閲覧用の部屋もあり、そこにはたくさんの人がいたのに、ページをめくる音しかしない。

ゲルトとディルクは目配せをして互いに目当ての本を探しに行ったが、フリードはそこまで本好きというわけではない。
最初は農作物の本をいくつか読んでいたがいつのまにか寝てしまったらしい。
肩を揺り起こされて目を開けると、ディルクが苦笑していた。

ほらみたことか、と言われたような気分で、フリードは膨れて図書館を出る。


「お待ちください、フリード様。おとなしくしていて偉かったですよ」


ゲルトの慰めも役に立たない。フリードは悔しくて仕方なくて地団駄を踏む。


「うるさい。子ども扱いするな」

「だから、つまらないですよと言ったじゃないですか」


くすくす笑うディルクに、フリードはイライラしたし、もどかしくもあった。