とはいえ、やんちゃなフリードの相手は楽ではない。
長く机に座っているのは苦手らしく、勉強していてもすぐに話をしたがるのだ。
「いいですか。記号として覚えようとするから身につかないんですよ」
「記号って?」
「歴史は物語のようなものです。何年に何が起きた、ではなく、こういう理由でこうなった、と覚えたほうがあなたにはいいでしょう」
「例えば?」
「そうですね。この継承戦争のあたりで言うと……」
頭を突き合わせながら話すふたりを、家庭教師のゲルトはニコニコしながら見つめていた。
「ディルクくんは家庭教師になれそうだね。私より教えるのがうまいかもしれない」
「ゲルト先生! からかわないでください」
ディルクの存在が、フリードにいい影響を与えているのは間違いなかった。
そしてディルクも、室内にこもりがちだったのが、フリードに付き合わされて外に出るようになる。
剣も乗馬も、ふたりでいる期間にみるみる上達した。まして、フリードといればいい指導者に教えてもらえるのだ。ただでさえ吸収のいい少年には理想の環境だった。
やんちゃなフリードに落ち着いたディルクという組み合わせは、周囲の大人たちにとっても本人たちにとっても、最高のものだったのだ。



