「でもね、黒瀬君と話してて今思いついたんだけれど」

「うん?」

「本が好きな人から、好きです、一緒に本読みたいですって言われたら一番嬉しいなって」


そうっと、思い描いた空想に目を閉じる。


本が、好きな人。本を大切に扱ってくれる人。いろいろを半分こできる人。貸し借りできる人。読書をするときに、目が輝く人。


そんな、本が好きな人から。……叶うなら、黒瀬君から言われたら。


「うん」

「そうしたらね、きっと、一番幸せだなあって」

「……うん。そうだね」


一つずつ落とした理想は、あまりに眩しくて、あまりに美しくて、きっと叶わないけれど。


神妙に頷いた黒瀬君が、分かるよ、と言ってくれた。実感がこもっているのは声音から明らかで、嬉しくなる。


黒瀬君は曖昧な相槌を打たない。


本当に思ったことにだけ頷く人なのは、もう知っている。そういう、嘘がないところが素敵だなあと思う。


ね、黒瀬君。あのね。一番叶えたいのはね、黒瀬君と本を読む幸せなんだ。