「あんたたち噂になってるよ」


衝撃的な報告を耳にしたのは、黒瀬君とご飯を食べた次の日のこと。


教室に入ってきて普段通りに挨拶をした瑞穂が、どことなくいつもより険しい顔つきだったので気になった。


どうしたんだろう、と首を傾げたらこの発言。


「え?」


当然、よく分からない。


「デートしたって?」

「違うよ! あれは食事と図書館巡りだよ」


断じてデートじゃないよ。全然そんなのじゃ、ないよ。


「それを一般にデートって言うと思うけど」


違う。違うよ。図書館巡りだよ。


私はそのつもりだった。黒瀬君と本について話す、いつもと同じような時間を過ごしていた、つもりだった。


でも、単に場所が変わっただけで、それだけで読書談義が傍目から見てデートに見えるというのなら、それこそ私は、どうしたらいいのかな。


「噂って?」

「なんか、黒瀬君と一緒に帰ってる子見たって情報出回ってる」

「詳しくお願いします!」


んー、そうだね、と、考えを巡らせるように瑞穂が目を閉じた。


組んだ腕に少しだけ、力が入っている気がする。


……無駄に言葉を飾らない主義の瑞穂が、口にする言葉を選ぶほど、困ったように唸って眉をひそめるほど、事態は悪いのだろうか。