「知らなかった、ありがとう木戸さん……!」

「どういたしまして」


私も黒瀬君も好きな作者さんで、もう何年も発売が止まっていたシリーズの最新刊が、やっと出ていたらしかった。


私より黒瀬君の方が熱狂的なファンで、私は有名どころを押さえていただけだったのだけれど、黒瀬君におすすめされた順に作者さんの本を読破している。


だから、お節介かもしれないけれど、私が借りるよりは黒瀬君に先に読んで欲しかった。


うわ、嬉しい、やったねと繰り返す黒瀬君に、こちらまで嬉しくなって見つめる。


こんなに喜んでもらえるなら言ってよかった。


「え、うわ、ちょっと借りてきていい?」

「どうぞどうぞ」


早く借りないと他の人に借りられちゃうかもしれないもんね。


手続きをしてしまった方が安心できる。もちろんいいですとも。


新しい図書館だから、貸出カードをまずは作らないといけない。


二人でカウンターに並んでカードを作って、興奮冷めやらぬ黒瀬君の貸出をカウンター近くで待つ。


今知ったばかりで私もまだ読んでないので、後で貸してもらおう。


「ごめん、おまたせ」

「ううん、大丈夫。おかえり」

「ただいま」


本を鞄にしまいながら、本当にありがとう、と言われた。


「どういたしまして。後で貸してくれる?」

「もちろん。なるべく早く読むから」

「ありがとう。のんびり待ってるね」


うん、と頷いた黒瀬君が、少しだけ言い淀んだ。


「……ね、木戸さん。噛むくらい喜んだのは、これを見つけたから?」

「え、うん。黒瀬君絶対喜んでくれると思って」


その結果噛んだけれど。残念なことに噛んだけれど……!


そっかあ、と頷いた黒瀬君が、小さく。


……自分のことより、他人のことで声が大きくなるのはずるいなあ。