「吉井さん、ご飯食べましたか?」
事務椅子の上で膝を抱きタブレット端末をいじっている吉井さんが、視線をそのままに答える。
「まだ」
「だったら、パン多めに買ってきたのでどうぞ」
「いらない。食欲ない」
ぼそぼそという吉井さんの言うことなんか聞かずに、照り焼きチキンと卵のサンドイッチを彼のデスクに置く。
「先週もそんなこと言ってお昼抜いて、結局直射日光にやられてヘロヘロになってオフィス戻ってきたの誰ですか。
大人なんですからいい加減、自己管理くらいちゃんとしてください。社長は強面すぎて彼氏役なんてできないんですから、吉井さんが倒れたらこの会社潰れますよ」
まったく、無気力もいいところだ、とお説教みたいなことを言ってから、パンと一緒に買ってきた野菜ジュースにストローを挿した。
吉井さんは、ひょろっとした長身の無気力男子だ。現代っ子とでもいうのだろうか。
とにかく覇気がなくて、自分への興味もない。見ている限りだと、欲もなさそうに見える。
顔立ちは中性的で、美形の部類に入ると思う。
もっとも、それに気付いたのは、先週だけど。それまでは、伸びきったダークブラウンの髪に顔が隠れていてよく見えなかったから。
髪を切らなかったのは、彼女役を依頼されたとき、女装がしやすいようにだったらしいから、仕方ないって言えばそうなんだけど。
今は、男性アイドルがしていそうな爽やかな髪型になっていて、これなら〝彼氏役を頼んだのにこんなのホームレスの一歩手前じゃない!〟とクレームがくることもないハズだ。
吉井さんは、面倒くさそうに小さなため息をついてからタブレット端末をデスクに置き、のそのそとサンドイッチのパッケージを開ける。



