思い当たったのは、その一ヶ月前にお金を無心してきた元彼。付き合って三ヶ月が経ったとき、不便だからと言われ合い鍵も渡してあった。

もしかしたら、あのときから既にお金を狙っていたのかなって考えたら、なんだか疲れ果ててしまい、これ以上関わるのが嫌で、結局被害届は出せなかった。

それが半年前の出来事で、その一週間後、新しい職探しのために再びハローワークを巡っているところを社長に声をかけられたのが、ここで働き出すきっかけだ。

「五ヶ月前に雇ってから今日までの仕事っぷりを評価して、その元彼の家、探してやろうか。もちろん、無料で。
そいつの家がどこかわからないんだろ?」

煙草をくわえ、シルバーのジッポで火をつけながら言う社長に、少し考えてから首を振る。

「いえ。もう関わりたくないので」
「そんなこと言って解消しないで放っとくと、いつまで経っても忘れられないだろ」

もっともらしい忠告を受け、むっと口を尖らせる。

社長は、私と十歳も変わらないし、性格だっていい加減なのに、たまにこういう人の心を見透かすような、達観したようなものの言い方をする。

「もう忘れましたし。それより私、お昼まだなので食べてていいですか?」
「ああ。昼飯食べて少ししたら次の仕事頼むわ。内容はあとで説明する」

また依頼が入ったのか……。みんな人間関係でどれだけ困ってるんだろう。

そんなことを考えながら、事務椅子に腰を下ろし深く息をつく。

それから、ここに戻る途中で買ってきた菓子パンをコンビニ袋から取り出して、デスクに置き、向かいの席に座る吉井さんに視線を移した。