『ふーん。そうやって今までずっと逃げてきたわけか』
『向き合って傷つくのが怖いから、〝今さら〟って片付けてるんだろ』

私が、元彼から逃げてきたのは事実だ。

本当ならお金を返してもらってきちんと清算すべきなのに、元彼が私を適当にしか扱っていなかったっていう事実と向き合うのが怖くて、できないだけだ。

新しい生活のなかで、元彼のことなんて吹っ切れたみたいに過ごしているけれど……たぶん、根っこの部分は違う。

〝なんで〟って〝どうして〟〝ひどい〟って、元彼にぶつけられていない感情が、根腐れを起こしてるのに、私はそれに気付かないふりをしている。

全部……久遠さんの言う通りだ。
いい年して八つ当たりなんてしてしまった自分を再度思い知りキュッと唇をかんでうつむく。

そして、謝ろうと口を開いたとき。

「でも、俺が泣かせたから」と告げられる。

「え……」

顔を上げると、未だバツが悪そうな顔をする久遠さんが、私を見ていた。

「どっちが悪いとかはわかんねーけど。俺が泣かせたのは事実だから。……悪かったと思ってる」

真っ直ぐに見つめられながら告げられた言葉に、思わず声を呑んだ。

こんなにも誠実な謝罪を受けたのは初めてな気がして、言葉が出なかった。

いつもは悪態ばかりついてくるくせに……言葉をオブラートに包むことさえできないくせに。

真摯な想いが胸を打つようだった。