食べ方が綺麗……というか、きちんとしている。

まぁ、高いレストランだしな……と思いながら、私もお行儀に気を付けながら食べると、トマトの瑞々しさが口の中に広がった。

生ハムの塩分が丁度よく口の中で混ざり、とてもおいしい。

普段、足を運ぶお店では食べたことのないような風味に感動していると、社長が食べながら「久遠だけど」と話し出す。

「あいつさ、ガキの頃、母親と色々あったみたいで、不眠症はそれかららしい。少なくとも、中学で会ったときは既に隈作ってたから、それ以前ってことだろうな」

「中学で、もう……?」
「ああ。俺も詳しくは聞いてないし、踏み込んでいいもんかもわかんねーから、半端にしか知らないけど」

手を止めた私をチラッと見てから、社長が続ける。

「パズルばっかするようになったのも、たぶん、同じ時期からだろうな。
あいつがあまりにパズルばっかしてるから、心理的にやばいんじゃないかって一度調べたこともあるけど、精神的にどうっていう問題はなさそうだから放っておいてるけど」

調べたのか……と驚く。

でも、久遠さんのは趣味として楽しんでいるって風には見えないから、社長からこうして聞かされなかったら、私もいずれ調べていたのかもしれない。

久遠さんがパズルをしているのは、ただ、目の前にある時間を潰しているだけに見える。

眠れない時間を、なにも考えずにすむようにパズルに逃げている感じがする。

「家族間でなにがあったんだか知らねーけど。俺が知る限りではもう十五年患ってんだから、根が深いよな」

静かに言った社長に「お母さんは今は……?」と聞くと「とっくの昔に離婚してる」と返される。