「まぁな。軽く対人恐怖症みたいなとこがあるから、あまり公な場での仕事はしてねーけど、そのぶん、部屋にこもって色々やってる。
この天井みたいな企画書練ったり、新しく建設するホテルの設計とかデザイン練ったり。あいつ、大学で建築学科出てるから建築士の資格も持ってるし」

「建築士?」
「二級だけどな。現場出るのが嫌だとかで、一級は受けてないから。あいつが一級とれば久遠財閥的にも外部の人間に頼まなくてもよくなるからいいのに、久遠は面倒らしい。
今は久遠財閥関係の建築物は、一級建築士の先生の補佐的な感じで入ってるって話だ」

早くもサラダを食べきった社長に「おまえも早く食え」と言われ、フォークを握っていた手を動かす。

久遠さんはあの部屋で、パソコンを開いてそんなことをしていたのか……。

どう頑張っても私にはできなそうなことに思え……私が様子を見に行く理由ってあるんだろうかと不思議になる。

久遠さんはちょっと気難くて口も態度も悪くて夜眠れないってだけで、しっかり働けている。
私が行ったところで仕事の邪魔にしかならないんじゃないだろうか。

空いたお皿をボーイさんが持って行き、代わりに次の料理が出される。

「トマトと生ハムの冷製パスタです」と言われたお皿には、新鮮なトマトの赤の他にもバジルの緑が彩りを添えていた。

「お。うまいな、これ。さすが高いだけある」

社長が、パスタを巻きつけたフォークを口に入れ言う。

社長はおおざっぱな性格をしているから、パスタとか音を立てて豪快に食べそうだなぁと思っていただけに、お行儀よく食べる姿を見て意外に思ってしまった。