「もう、本当にいいんです。ごめんなさい、泣いたりして……」

しかも弱音みたいなことまで言ってしまったし、八つ当たりに怒鳴ってもしまった気がする。

元々は久遠さんが嫌なこと言ってくるからだけど、それにしたって仕事としてここに来てるっていうのにこれはダメだ。

そう自己嫌悪に陥り、どこまでも沈みそうになっていたとき。

俯いていた視界に久遠さんの腕が入ってきたと思った途端、くいっと顎を上げられ、すぐに唇を押し当てられた。

何が起こったんだかわからなくて、少し呆然としてしまう。
それからハッとし、久遠さんの胸を押そうとしたところを、逆に押し倒される。

肩を押され、床に押し付けられたまま再びキスされて……混乱する。

なんでキスされているのかがわからない。
もう、こういうことはしないって言ったのに。……でも。

久遠さんの唇が、あまりに優しく触れるものだから、抗議する気にもならずにぼんやりと眺める。

閉じた瞼。長いまつ毛。
黒髪が顔に触れ、くすぐったい。

眺めていると、そのうちに久遠さんが目を開けるものだから驚いたけれど……そのまま、触れるだけのキスを繰り返す。

啄むように唇をやわらかく挟まれ、何度も角度を変え、重なる。

まるで慰めるようなキスに、目尻にたまっていた涙が頬をつたうと、わずかに離れた久遠さんの指先がそれを拭った。

日当たりのいい、空調の効いたホテルの部屋。
押し倒された状態のまま見上げていると、久遠さんが「泣くな」と言う。

「……もう泣いてません」
「さっきボロボロ泣いてたろ」
「だからってキスで慰めるとか、どういう思考回路……」
「嫌なんだよ」

言葉の途中で遮られ黙ると、久遠さんは眉間にシワを寄せて私を見た。

いつも怒っているような顔をしている人だけど……でも、これは少し違う。
初めて見る種類の顔だった。