「おまえ、ずいぶん久遠に気に入られたみたいだな。今日も来てくれって依頼があった」
「……え。依頼? 依頼って……内容は?」
当たり前みたいに昨日みたいなことをできると思われても困る。
だから聞くと、社長は「特には聞いてないけど、お茶入れて欲しいとか言ってた」と答えた。
「おまえ、お茶なんか入れてやったのか」
「……まぁ、はい。目が疲れて充血してたから。お茶って言っても、ティーパックの簡単なやつだからカテキンとか入ってるかもわからないですけど」
緑茶がいいとは書いてあったけど、きちんと茶葉から入れたものじゃないとあまり効果は望めない気がする。
私だって気休め程度にいれたものだったのに……またお茶入れて欲しいなんて頼まれても困るし、それくらい自分ですればいいのにとも思い眉を寄せた。
「え、まさかお茶入れるためだけに行くんですか?」
「おまえに頼みたい依頼もないしな。忘れ物したならちょうどいいだろ。久遠なら金払いもいいし、たっぷりサービスしてこいよ」
嫌な笑みを浮かべる社長に、いつものように〝セクハラで訴えますよ〟とは言えずにため息で逃がす。
それから、バッグを持ち「いってきます」と席を立った。
「昨日のことは、社長には秘密にお願いします。あと私、今後呼ばれてもああいうことは一切しませんから」
そうハッキリと告げると、久遠さんは相変わらず温度の感じられない瞳で私をじっと見た。
昨日一度足を踏み入れたところで、敷居の高さは変わらない。
この高級ホテルにいつまで泊まる気なんだろうと思いながら、ボーイさんに会釈し、早足でエレベーターに乗り込み、3203号室についたのが三十秒前。
開口一番に宣言し、ひとつ息をつく。
それから、相変わらず覇気のない、隈の残った顔をした久遠さんに、ちゃんとご飯食べたのか心配になりながらも続けた。



