眠れぬ王子の恋する場所



「佐和さん? どうかした?」

向かいの席から吉井さんに声をかけられ、慌てて首を振る。

「いえっ、なんでもないんですけど……」
「そんな風には見えなかったけど」

すぐさまツッコむ吉井さんの洞察力のよさに、苦笑いを浮かべながら目を逸らす。

「その、久遠さんのところに忘れ物しちゃったかもって……」
「久遠のとこに忘れ物? なんだ、だったら電話してやろうか?」

聞いていた社長に言われ、「あー……いえ……」としどろもどろになっていたとき、プルル……と電話の音が社内に響いた。

「あー、俺の」

社長がデスクの上にある携帯を手に取る。
そして、液晶画面を見てから、私を見て「タイムリー」と笑った。

「おー、生きてたか。どうした……ああ、構わないんじゃねーかな。たぶん。ただ、派遣する以上仕事として金とるけど……ああ、だったら全然」

〝タイムリー〟と〝生きてたか〟の言葉に、たぶん、電話してきたのが久遠さんなんだろうって予測し、ハラハラしてしまう。

だって、もしも久遠さんが余計なことを言ったら大変なことになる……そう思い睨むように見ている先で、社長が「ああ、じゃあな」と電話を切る。

そしてすぐさま「佐和」と名前を呼んだりするから、肩がびくっと跳ねてしまった。

「……はい?」

久遠さんが事実をそのまま話していたらどうしよう……。

不安を精一杯隠し返事をすると、社長は私を見てニヤッと口の端を上げる。
その意地の悪い笑みに……ああ、終わった……と頭がクラッと揺れた気がした。