眠れぬ王子の恋する場所



「なので、これ以上犬の散歩続けると、この会社が摘発されかねない事態に発展する恐れがあるので、もう行きません」

淡々と言い、パソコンのスイッチを入れる吉井さんに、社長は「それが無難かー……。あー、でもいい客だったのに」と、残念そうに言う。

「しかし百万って、おまえ、自分になかなかの値段つけるな。男のくせに」

「二十歳以上も上の人相手にするんですよ。年上が特に好きでもない俺にとってモチベーション保つのにどれだけの労力を必要とすると思ってるんですか。
そもそも、そういう行為自体面倒くさいと思ってる草食男子の俺には妥当です」

抑揚のない声で言い切った吉井さんが「そもそもやりませんけど」と言い、小さくため息を落とす。

美男子だと、お客さんに言い寄られたりしちゃうんだなぁと、少し可哀想に思いながら見ていると、吉井さんと目が合った。

「ところで佐和さんは、昨日どうだった? 久遠財閥の御曹司の健康診断」

健康診断……といえばそうなのか、と苦笑いをこぼしながら口を開く。

「社長に聞いていた通りの美形でしたよ。ただ性格が悪かったですけど」
「へぇ。やっぱりある程度お金がある人って性格ひん曲がっちゃうもんなのかな。岡田さんもだけど、お金でどうにでもなると思ってそう」

パソコンが立ち上がるのを待つ間に、今度はタブレットをいじりだした吉井さんがチラッと私に視線を向けた。

「久遠さんみたいな人こそ、お金で女買ったりしそうだよね」
「え……っ」

昨日のことを言い当てられたのかと思い、驚き声をもらした私に、吉井さんが表情を変えずに続ける。