「だったら、明日とかでも……」
「まぁ、聞け。佐和。いいか? 俺が今送った住所にいるのは、久遠財閥のひとり息子だ。しかもかなりの美形」
〝久遠財閥〟の会社名に思わず反応してしまったのは、私だけじゃない。
「え」と小さく声をもらしたのは、無気力吉井さんも同じだった。
それもそうだ。だって、久遠財閥って言ったら、たぶん、知らない人を探すほうが大変なくらいの大企業だ。
ハウスメーカーやら医療機器関係やら、金融関係やら、とにかく広い分野で〝久遠〟の名前を聞く。
協賛しているテレビ番組も多いから、CMでもよく目にする。
そんな大企業の御曹司と、こんな三人で回している〝便利屋〟の社長が知り合いだなんて……世の中、案外せまいんだなと驚いていると、社長が続ける。
「おまえ、もう誰も信じないって決めたんだろ? 元彼に金も仕事も奪われて」
「え、ああ……まぁ」
急に私の話を出されて戸惑いながらもうなづくと、社長はニッと口の端を上げた。
「人を信じないってなると、もう他に信じるものって言ったら金しかない。つまり、おまえはこの先、愛情のない結婚をするわけだろ? 金だけを信じて。
だったら、結婚相手は金持ちの方がいいだろ。愛もないのに金もなかったらすぐ離婚だぞ」
きりっとした顔で言われて、そうなのかな……と一瞬考えてしまった自分をすぐに後悔した。
言ってるのは、普段ふざけている社長だ。真面目に考えることでもない。
「言っている意味はわからないでもないですけど」と呆れながらため息を落とす。
「そもそも私、結婚するかも分かりませんし。だいたい、まだ二十一……」
「じゃあおまえは孤独死だな。六十で仕事辞めたあと、シルバー派遣みたいなことしてそこも退職して、ひとりきりの部屋で仕事もなく数十年過ごしたあと、孤独死」



