「吉井は、先週と同じな。岡田さんから犬の散歩の依頼入ってるから。……おまえ、絶対ここの奥さんに色目使ったろ。もう二ヶ月になるぞ」

岡田さん、というセレブから大型犬の散歩を代行して欲しいと依頼が入ったのは、結構前だ。

たしかに、週に何度かの恒例となってるなぁと思っていると、吉井さんがもそもそとサンドイッチを食べながら言う。

「色目っていうか……なんか寂しそうだったから、話聞いて優しくしてたらやたらキラキラした目で見てくるようになって。
まぁ、お金持ちなの知ってるし、飽きるまでうちにお金落としてもらおうかと思って」

それを聞いた社長が、いぶかしげに顔をしかめる。

「おまえ、まさか変なことしてないだろうなぁ?」

吉井さんは「まさか。相手四十代ですよ」と、若干失礼な言葉で否定した。

「二十歳上はさすがに」と言う吉井さんに、社長も「まぁそれもそうか」と煙草をふかしながら同意する。

「その前に、この会社潰れたら困るから、そんな真似しないですし。再就職するのも、その職場に慣れるのも面倒くさいから絶対嫌です」

サンドイッチを食べ終えた吉井さんが、手を伸ばし、私のデスクの上にあった空のコンビニ袋にゴミを入れる。

そういえば、吉井さんが前の会社を辞めたのって、人間関係が原因だって言ってたっけ。

『プログラミングとかの仕事だから誰とも話さなくていいと思ったのに、違った。先輩面して鬱陶しいヤツもいたし、あー嫌だなーって思って辞めた』

いつだったか、そんなことを言っていたっけと思い出す。

「あー……で、あれだ。仕事。佐和、おまえはちょっと俺からの頼まれごとしてくれ」

話を戻した社長に、煙草買ってこいだとかお使いかな、と思っていると。

「ある男の様子を見にいって欲しいんだ。昔馴染みなんだけど、あんまり生活力がないっつーか……とにかく、あんまり目を放しとくと心配なヤツだから」

後ろ頭をかきながら言われて、目を丸くする。