「佐和さんこそ、お金の管理ちゃんとしたほうがいいと思うよ。いくら恋人だからって気を許すには早すぎたんじゃない? 
どんなに親しくなったって他人は他人なんだから」

ぱくりとサンドイッチを頬張った吉井さんが「あ、いただきます」と思い出したように言う。

それを見て私もメロンパンを口に運んだ。

「ご心配なく。もう誰も信用しないって固く心に決めましたから」

「そういうこと言う人って、またすぐ騙されるんだよね。
気を付けた方がいいよ。口が上手いクズなヤツって結構多いから。まぁ、この仕事してればわかってると思うけど」

吉井さんのいうように、この仕事をしてから人の嫌な部分を目にする機会が増えた。
というのも、私たちが呼び出されるのなんて、いわゆる修羅場がほとんどだからかもしれない。

「吉井さんも、社長に声を掛けられてこの仕事始めたんですよね」

たしか、私よりも二年ほど前に。

そう思い聞くと、社長が「そう。こいつ美男子だったから使えると思って」と答える。
相変わらず、オブラートという言葉を知らない。

「社長、見た目完全ヤクザだから、声掛けられたとき、あー、やべー殺されるって思った」
「あー、言われてみればあん時、そんな顔してたかもな。吉井、表情筋死んでるからよくわかんねーけど。
佐和なんか、俺見て表情どころか顔色まで変えてたぞ。顔面蒼白ってヤツ」

クックと楽しそうに笑う社長と、無表情の吉井さんの会話を聞いていて、このオフィス内ではオブラートなんてものは必要ないのかもしれないとぼんやり考える。

気持ちのいいほどの本音トークに感心にも呆れにも似た気持ちになりながらメロンパンを頬張っていると、社長が「おまえら、飯食ったらそれぞれ仕事あるからな」と話題を変える。