《完結》アーサ王子の君影草 中巻 ~幻夢の中に消えた白き花~

　その必死な物言いがどうしようもなく可愛らしい。だが、ラインアーサの気持ちだって負けてはいない。

「……ん、ありがとう。でも俺も負けないくらいスズランの事を想ってるよ。でも、本当に良いのか？　今、君の傍を離れるなんて事…」

　今はまだ不安定な時期だ。何があるか分からないからこそ、出来るだけ傍にいたい。こちらの気持ちを察したのか、スズランが瞳の奥で微笑んだ気がした。

「あのね。わたしが本当に全てを理解するなんて出来ないけれどあの時、ハリさんの感情がわたしの中に流れ込んで来た時、思ったの」

「あの時の〝夢の中〟での事か」

　ラインアーサが相槌を打つと、スズランもこくりと頷いた。

「自分のものではない感情が…、一度に流れ込んできて、はじめはものすごい違和感で気持ち悪くなるの。自分の考えや感情が全部上からぬりつぶされて自分が自分じゃなくなっていくみたいな。だけど強制的に心が重なっていくと、段々これは本当に自分の感情なんじゃないかって錯覚してしまいそうになる……」

「…っ」

　言葉を失った。もしあの時に全てがハリの感情に上書きされ、彼女自身が完全に消されてしまっていたら──。そんな事、あって良い訳がない。今更ながら身震いする。
　スズランは更に話を続けた。