《完結》アーサ王子の君影草 中巻 ~幻夢の中に消えた白き花~

「…っそんなの知らないもん」

　伏せたままで表情は見えないが、頬を膨らませているのが手に取る様に分かる。まだ機嫌は治っていないらしい。そんな彼女の動作一つ一つにさえ愛しさが込み上げ自然と笑顔になる。

「いいよ。俺の大事な思い出って事にしとくから」

「むぅ……なんかずるい」

「ずるくない。それに、からかってなんかない。俺はスズランの事を愛しいと思ったから唇を奪ったんだ。もちろんあの日も、どんな時だって───スズラン、俺……」

　ラインアーサは強く幸福を噛み締めながら、それでも伝えなくてはならない言葉を言いかける。
　しかしこれを伝えればまた暫しの間、彼女との二人の時間が取れなくなるのが確定してしまうのだ。
　肝心な言葉を言い躊躇っていると、顔を上げこちらを覗き込むスズランの視線とぶつかった。

「ライア。わたし、平気だよ…！」

「っ…！」

「捜しに行くんだよね。ハリさんの事」

　何もかもを見透かす澄んだ瞳と、その言葉にはっとなる。

「なんで知ってっ、……いや。やっぱりスズランには敵わないな」

「わたしはライアにたくさん助けてもらったから、周りのみんなに助けてもらったからこうして此処に居るんだよ。それにいつも、いつだってライアの事考えてるんだから！」