《完結》アーサ王子の君影草 中巻 ~幻夢の中に消えた白き花~

「そんな! ライアこそ怪我は…っ平気なの? 早く手当てを…」

 寧ろ心配なのはライアの方だ。廊下でハリと対峙した際に受けた攻撃で大怪我をしたのだから。

「ん? あれは過去の出来事だから今の俺はこの通り無傷だよ、ほら」

「あ……」(本当だ…、あれ? な、なんか…)

 にこりと微笑むライアに妙な違和感を覚える。よく見ればライアの服装や髪型が当時とはまるで違う上に更に大人びた印象を受けた。

「でも、間に合って良かった。例え夢でも今度は君を守れたから…」

 言われてから再度はっとなる。本来であれば、あのまま首を絞められて意識を手放している筈だった。そう考えると過去の出来事とは言え背筋が冷たくなる。
 そして先程からずっと抱きしめられたまま密着している為、どうやっても目の前の端整な顔立ちに照れてしまう。

(っうぅ、ちかいよぅ…っ)

 まだ思考に多少の混濁は残るが、次第に状況が把握出来てくる。冷静に考えると今までの自分の行動が酷く愚かに思えた。傷つくのが怖くて夢の中へと逃げたのだ。〝そうする事でしかライアの力になれない〟と自分に言い聞かせ、自分自身にそう暗示をかけた。

 ──自らを犠牲にしてこの世界(リノ・フェンティスタ)を守ったライア。満身創痍だった彼を救いたかった。その気持ちだけは本物なのに、何故一人で強情を張ってしまったのだろう。
 きっと何度謝っても足りない。