不思議に思ったスズランは相手を伺う様にして見つめた。相手もスズランの様子を伺っている様だ。

「……あ、の? 本当にすいませんでしたっ」

「待て。一体此処に何をしに来た?」

 急いで踵を返そうとしたが呼び止められてしまった。やはり勝手に禁止区域である森へ侵入した罪を糾弾されるのだろうか。スズランの心臓は早鐘を打ち続けていた。
 その場にそぐわぬ柔らかな風が吹き、森の樹々が優しく騒ぐ。

「……えっと、わたし…きゃ!」

 相手の警戒心が多少薄れたと思ったのもつかの間、急に肩を掴まれスズランの心臓はもはや限界を迎えそうになっていた。

「君の、……」

「あの……あなたはここの警備の方、ですよね?」

「あ、ああ…」

 何とも歯切れの悪い返事だが目の前にいる相手は、やはりこの森の警備隊員で間違いなさそうだ。

「ここに来たことは謝ります。でも、ただ景色を眺めていただけなんです。わたし、この場所が好きで……」

「……眺めるだけなら、この国には他にもっと良い所があるはずだが」

 坂の多いこの街は至る所に景色の美しい観光名所がある。警備隊員の言っていることは尤もだ。しかし〝この場所〟はスズランにとって特別なのだ。