《完結》アーサ王子の君影草 中巻 ~幻夢の中に消えた白き花~

「ごちゃごちゃうっせえ! どけよチビ」

 痺れを切らした少年が荒々しくスズランの胸ぐらを掴みあげた。小さな身体は容易に地面から浮く。

「ん…っ、ぱぱ……を、いじめたら…、だめ」

「やめろ! スズを離せ!!」

「何訳の分からねえ事言ってんのか知らねえけどよ、俺らは生きてくのに必死なんだ! 金になるなら人攫いだって何だってやる!」

 余裕のない口調は苛立ちを増し少年は更に激高する。

「ぁ…っくぅ」

「や、やめてくれ! 頼むからその子から手を離してくれ!! 代わりにならいくらでもなるっ! その子だけはっ…」

 哀願するアスセナスを見下す様に目の前の少年は嘲笑った。

「はっ、何だよそれ…。親の愛とかってやつ? 子供の為なら命をかけるってかぁ!?」

「当然だ!」

「……嘘つけ、親なんて……大人なんて自分の事しか考えてねえ癖に!! ガキの事なんてただの所有物としか思ってねえんだろ!? そして使えねえって分かればカンタンに、まるでボロ切れみてえに捨てやがるっ!」

 少年の手と声が震える。その悲痛な声に表情は確認できないが、少年が泣いているように見えた。

(っ…?! ないてる…の?)

「そんな大人ばかりではない筈だ!」