「───少し此処で待ってて」

 頭上から降る優しい声。
 スズランは驚くほど柔らかで座り心地の良い長椅子(カウチ)に座らせられていた。
 ライアの手に引かれるまま到着した場所は、国営の格式ある宿。煉瓦造りの立派な入口を抜けた先は開放的な空間が広がっており、上品かつ無駄のない装飾とそれに合った調度品が置かれている。
 なんとも居心地の良さそうな雰囲気に気が緩みそうになってしまう。しかしその全てが初めて目にするものばかりでスズランはそわそわと落ち着きなく瞳を動かした。
 ライアは宿に着くなり入口に立っていた男性に傘を預けた。男性はずぶ濡れの二人に気づくなり大急ぎで毛布を持ってきたのだが、ライアはその毛布でスズランを包むと強引に長椅子(カウチ)へと座らせたのだ。雲にでも座っている様な柔らかさと、羽の様に軽くて暖かい毛布に包まれてスズランは驚かずにはいられなかった。
 ライアはそのままカウンターへ行き、傍らに立っていた女性へ何かを伝えている。

「……じゃあ、頼むよ。おいでスズラン」

 一体何を頼んでいるのだろうかと呆気に取られているとライアが目の前に立っていた。名を呼ばれ慌てて立ち上がる。

「ではご案内いたします。こちらへ」