再度、無理をして微笑んだ。

「ああもう! なんでそうなるんだよ。さっきから誤解しているのはスズランの方だ。あの人は……ヴァレンシアは恋人じゃあないよ。ああ見えても俺よりずっと歳上だし、一児の母なんだ」

 ライアは一気に捲し立てると歯痒そうに言葉を選んだ。

「っ…え、えええ!? 全然そんな風に見えないよ…? だって二人はとってもお似合いに見えたし、すごく親密そうだったし…。それに、それにわたしの邪魔がなければライアとあの人っ…キスしそうだったもん…っ」

 そう言われても恋人同士にしか見えなかったのだ。もしあの時邪魔が入らなければ二人は……。その先を想像してしまい胸を痛めながらライアの瞳を覗き込んだ。
 街灯の下、澄んだ瑠璃色(るりいろ)の瞳が輝く。

「スズラン…。お前やっぱり妬いてるだろ」

「…っ」

 感情を露わにしてしまい、恥ずかしさで全身が茹だる様に熱くなった。ライアの顔を直視出来ず俯く。

「ほら、行こう。あそこの高架橋をくぐればすぐだから。とにかく着替えだけでもしないと、また風邪をひいてしまう」

 ライアはそう言いながらスズランの手を強く握り、傘を片手に歩き出した。

「ま、まって! ライア。わたし…」

「もっとこっちにおいで? でないと雨に当たる」

 傘の下へと引き寄せる仕草も、優しく手を引いてくれる精悍(せいかん)さも。その全てがスズランの心を浮き立たせる。
 勘違いでもいい。
 今だけはこの幸福感を味わっていたい。裏腹に切なさで胸が締め付けられる。同じ様に強くライアの手を握り返した。