《完結》アーサ王子の君影草 中巻 ~幻夢の中に消えた白き花~

 ハリの「手酷くフラれた」という言葉に目の前がカッとなった。煽られているのだと分かっていても口が勝手に動く。

「じゃ、じゃあその旧市街の酒場(バル)の場所。知っていたら教えてください…! わたし、ライアに会いに行きます! 会って謝りたいの…」

「アハハ、鈴蘭は随分と容易いね。それにこっちから振っておいてなんだけど、絶対に後悔すると思うよ」

「そんな、後悔ならもう……」

 今、スズランにとってこれ以上の後悔などあるだろうか。このまま中途半端な気持ちでいる方が余程辛い。

「鈴蘭が何を見ても、僕は責任を取らない。行けば君の想いとやらはきっと粉々になるだろうね。そうすればこの暗示の魔像術(ディアロス)は永遠に解けないよ? 君の〝欲望〟はそのまま闇の中へと葬り去られる。むしろそれが僕の狙いなんだけど」

「……その方がいいのかも。何もしないでただ後悔してるよりも、その方がすっきりするかもしれないでしょ?」

「ふ……暗示の解き方も知らない癖に…。馬鹿みたい───」

 不意に目の前が明るくなり、瞳孔の奥に眩しい光が鋭く押し込まれる。

「っ…ぁ!」

 瞬間的にこの数分の〝出来事〟が強い光に覆われてぼんやりとしてくる。
 目の前でゆるゆると頭を振り、ハリが立ち上がった。スズランも膝を立ててゆっくり身体を起こした……。