《完結》アーサ王子の君影草 中巻 ~幻夢の中に消えた白き花~

 誘導されたとは言え、とんでもない事を言いかけた気がして思わず口元を抑える。依然、感情の読み取れないハリの声が闇の中で響く。

「協力有難う。君の〝欲望〟を一時的に闇で覆い隠したよ。これで君がどんなに強くラインアーサを想おうとこの暗示が解けるまであの忌々しい〝報い〟はおきない」

 報い。それが何を示しているのかは分からないが、頭痛や目眩といった類の症状は元々無かったかのように消えた。身体も軽く感じる。

「あ…、頭痛……治った、みたい。ハリさんも?」

「問題ない。それと……このカンテラが灯った瞬間、今の僕と話した事は綺麗に忘れるよ」

「そんな、どうして?」

「その方が都合が良い。僕と君は互いを知らない方が良いからね」

 何処と無く自虐的な言い回しに聞こえた。それに今しがた話した内容を忘れたくなかった。

「でもそんなの…!」

「僕は静かに日々を過ごしたいんだ。あと、そんなに気になるなら直接会いに行けばいいのに」

「会いに行くって、誰に?」

「誰って? 分かってる癖に」

 妙な雰囲気に違和感を覚えたが、ハリは強引に話を逸した。

「…っ?」

 くつくつと乾いた笑い声があがる。

「鈴蘭に手酷くフラれたからね、旧市街のとある酒場(バル)に通うみたいだよ? あの調子だともう此処には来ないんじゃあない? 実に哀れだよね」