「おい八百屋のおっさん! それ以上スズにちょっかい出すんなら美人の嫁さんに言いつけてやろうか!?」

「え、ちょ? それは無しで!! 冗談に決まってるだろう? セィシェル、お前も大人になれば分かるって〜」

「ちっ、分かりたくもねぇ!」

 セィシェルは悪態をつきながらしっしっと手を払った。

「セィシェルったら。わたしなら平気なのに…」

「おっさんの冗談がさむ過ぎるからだろ!  てゆーかスズ…、お前本当に平気なのか?」

「え、平気だよ。何言って…」

「んな訳ねえだろ…! そんなひでぇ顔してる癖に…っ!」

「……っ」


 ───あの日。
 久々にライアが酒場(バル)へ姿を見せた日以降、完全に想いに蓋をした。自分の想いを通す事で周りに迷惑をかけるくらいならと。
 もう完璧に諦めたのだ。実際そうする事で期待する事も、やきもきする事もなく平穏に日々を過ごせた。時が経てば次第に想いも薄れてゆくだろう。初恋など所詮叶わないのだとやっとの事諦めた筈なのに……。
 先月の終わりの日に再度ライアがやって来た。大粒の雨が降りしきる中、ずぶ濡れになって。こちらに何かを伝えようと必死になっているライアの姿に、スズランの心は激しく揺さぶられた。