《完結》アーサ王子の君影草 中巻 ~幻夢の中に消えた白き花~

 溢れてくる涙を枕で抑える様に顔を押し付ける。何故こんなにも涙が出るのか、何故こんなにも悲しいのか全く思考がついてこない。

「どうしてあんなふうに抱きしめるの? どうしてあんなふうにキスするの? どうしてわたしに優しくするの? ……どうして、わたしをからかうの? どう、してあんなに、いじわるなの…? もう…っ何が何だかわからないよ…!」

 感情が昂り考えがまとまらなかったが、一通り涙を流した事により少しずつ冷静さを取り戻す。そして頭の中の考えを整理していく。


 ───酒場(バル)に来ていたライアは誰にでもよく笑顔を見せていた。人好きのする容姿で周りには何時だって綺麗な女性達がいて……。
 毎日もやもやしていたのは、彼に近づくなと言われたからではない。ただの焼きもちなのだと今更気づいた。

「だってわたしにはいつも不機嫌だもん……よほど嫌われてるって事…、だよね」(っ…だからいじわるなの?)

 そう思うとまた胸が苦しくなる。
 今日、路地裏に居合わせたのは本当に偶然なのだろう。

「それでも助けてくれて、、すごく嬉しかったのにちゃんとお礼も言えないなんて……」

 路地裏であの二人組を相手に動じることなく対峙する様を思い返す。

「ライア、強くて……すごくかっこよかった」

 日頃から鍛えているのだろうか。ライアの力強い腕、軽い身のこなしは鮮烈にスズランの脳裏に刻まれた───。