“貴方は私とあの人を繋ぎ止める道具に過ぎないのよ”


 そう言って母親は俺の首を絞めて、笑った。


「かっ、かあ……さん……っ」


 俺は掠れた声で母親を呼んだ。


 どこにもいかないでって、一人にしないでって。


 俺を愛してよって伝えるために。


 それが絶対に不可能だとわかっていながら、俺は母親を呼ぶのを辞めなかった。


「貴方なんて産まなければよかった」


「嫌っ、嫌だあああっ!!」


 “産まなければよかった”と言われるのを拒否するように、俺は泣きながら叫んだ。



「なんだ、夢か……」



 額に触れると、大量の冷や汗が出ていたのが
痛いほど分かった。




 手元にあった携帯の電源を入れると、時刻は深夜の2時を示していた。



「母さん……っ」


 俺は涙を拭って潤の部屋を出た後、階段を降りて、洗面所に向かった。そして、そこの蛇口の水を大量に流して、何度も何度も顔を洗った。





 洗面所の横隅にある小さな窓の外では、満月がキラキラと淡い光を発していた。





「……なっさけな」



 窓に微かに映る自分の青ざめて涙で濡れた顔を見てると、つい口からそんな言葉が漏れた。



 マジ俺って何も成長しねえ……。


 
 なんであんな母親の夢ばっか見てんだよ……。