「痛っ!!」


 寒さが虐待の傷の痛みを誘発した。


 俺はわざとカーディガンの袖をまくって、ワイシャツの上から腕を引っ掻いた。


 するとかさぶたがめくれて、Yシャツに真っ赤な血が滲んだ。


 母親は、俺がこんなふうに血を流しても、いつも心配一つしなかったな。それどころか、俺が床を血で汚したら、頬を勢いよく叩いたっけ。



 死んだら、何か変わんのかな。


 どんなに俺が血を流しても心配してくれなかったあの母親は、ほんの少しでも泣いたりしてくれんのかな……。


「やめて下さい!」


 突如、後ろから聞き覚えのない声が聞こえた。

 え?


「うわぁ!!」



 ビックリして振り向こうとした俺は、無意識のうちに腕をズリっと滑らせてバランスを崩して、そのまま地面に落ちそうになった。




  しかしその俺の手を、聞き覚えのない声を発したらしい少女が、柵を軽々と飛び越えて掴んだ。




 ——は?






 はるか真下にあるのは地面。



そして、真上にいるのは、自分が1本の命綱になるとでもいうように、空中に投げ出された俺の片手を両手で必死に掴む少女。




「馬鹿!放せ!

俺はこれから死ぬんだよっ!!」