「よぉ。
母さん、こんな時間に何してんの?」



 咄嗟に出てきた言葉は、呆れるほどあたりざわりのない言葉だった。



 まぁ確かに今はもう夕方の6時だからこんな時間ではあるんだけどさ、俺、もっとなんかいい話題出せよ。

 せっかく一年ぶりに再会したっていうのに。

「何って、コンビニに行ってたのよ。
空我こそどうしたのよ。
言っとくけど、家にはまだ入れないわよ」




 母親は若干強い口調で言う。よく見ると本当にコンビニで買った商品が入っている小さなビニール袋を右手に持っていて、嘘じゃないことがわかった。


 嘘かどうかをすぐに考えてしまうくらい、俺は母親に悪い意味で支配されてる。


 いつ叩かれたり殴られたりするかわからないから、全然気が抜けないんだ。


 ……本当に、形だけの親子だ。


 それにしても、一年も会ってなかったんだから少しくらい俺に会いたかったとかいって家に入れてくんないかなぁ……って思ったけど、やっぱりそれは無理か。


 ちょっとショック。


 ……………いや、かなりショックだ。


 心臓を鷲掴みされてるみたいに、どうしようもなく心が痛てぇ。



 ハハ、もう10年近く愛されてないの思い知った癖にバッカみてぇ……。




 虚しくて、もうこんな初っ端から辛すぎて泣きそう。


  あーあ。やっぱ弱いな俺……。


「ハハ、知ってる」



 辛いのを隠して、俺は、無理矢理何でもないような態度を取り繕って、作り笑いを浮かべて言った。




「——で、何?
 ここに来たってことは私に用があるんでしょう?まぁ一年間言う通りにしてくれてたみたいだし、話くらい聞いてあげるわよ。ついてきなさい」



 母親はそういい、俺に返事をする隙も与えないというかのように、早足で病院の中に入った。


 俺は、慌ててその後を追った。


 本当にこれ、親子の会話じゃない。

 会話どころか、視線だってろくに合わない。

 こんなのまるで姫と執事だ。


 まぁ、期待なんてできる立場には生まれた時からいないことくらいわかってるけどさ……。



 それでも、奇跡が起きたらって、期待せずにはいられなかった。




 ——やっぱ来るんじゃなかった。




 なんて今更思っても、
もはや手遅れにも程があるんだけどさ……。



 本当に来なきゃよかった、こんなにも残酷で辛い現実を突きつけられるくらいなら。




 俺は涙を堪えて、母親の背中を追った。