「あづ?」

 直後、ズボンをギュッと握られたような感触がして、俺は首を傾げた。


 不審に思って真下を見ると、あづが俺の服を掴んで、スースーと寝息を立てていた。



「寝てるし…」


「はぁー」


 俺は思わず大袈裟にため息を吐いた。



 あんな吐いた後普通寝るかよ……。



「ん、かあさん……っ」



 ——へ?


 寝言を言ったその顔を凝視すると、
あづはうなされて、悲しそうに涙を流していた。




 もしかしてこれって……泣き寝入り?




「どんだけ今まで無理してたんだよ……」



 俺はそういい、ため息をついて自分の顔を片手で隠した。



 泣くほど辛かったのに、俺達の前ではこいつはずっとずっと、それがバレないように最低限笑って生きてきたっていうのかよ……。






 今までこいつがしてきたことに、俺は心底呆れた。



 そして、自分たち3人がしてきてしまったことに、思わず自己嫌悪がした。


 俺達は気づかなかったんだ、あづの辛さに……。


「……ごめんな、あづ」

 あづの頭を撫でて、呟く。


 それから、俺は自己嫌悪を振り払うように首を振ってから、あづの体を軽く持ち上げ、自分の部屋のベッドまで運んだ。


「……全く、馬鹿だよな」



 まぁ、こいつが喧嘩が強いだけの男だったら、俺は特区の党にこいつを捨ててるだろうけど。