「あづ!」

 怜央と次のターゲットを探しながら歩いていると、誰かが声をかけてきた。

 日比谷潤(ヒビヤメグム)。
 紫色のハネっ毛に、男子の癖に長いまつげ。それに少しだけつり上がった瞳という、チャラい容姿をした俺の幼なじみだ。


 そして、俺が結成した『亜空(あそ)』という名の暴力団の一員。


「……怜央といるってことは、今日もしたんだな?」


「………」

 俺は何も言わず、口をつぐむ。

 俺と怜央はただの高校の同級生で、決して昼休みにお昼を一緒に食べたり、放課後毎日のように一緒に遊んだりするほど仲が良いわけではない。じゃあなんで今一緒にいるのかと聞かれれば、それは、金をたかる時だけつるんでるからだ。

 怜央は亜空のメンバーでもないしな。

 潤は幼なじみだからそのことをよく知っていてて、俺が怜央と一緒にいるのを、あまりよく思っていない。

「返してこいよ」


「……嫌だ」


「は?俺はお前を心配して言ってんだぞっ!? さっさと返してこい!」

「うっせぇ!」

 そう言うと、俺は怜央の手を引いて潤から逃げた。

 ……イライラする。

 ……潤にではない。……自分の環境に、イライラする。

 
 たぶん、本物の虐待家庭で育てられた子供なんて、中々いない。



 俺はその中々いない子供の中の1人だ。




 母親は俺を結婚していた父親とではなく、
浮気相手と生んだそうだ。




 つまり、不倫で俺は産まれた。



 しかし母親は決してそれを父親に話すそうとせず、それどころか、父親に俺は自分と貴方の子供だと言い続けた。


 父親は最初はそれを信じた。でも俺が成長して他の人間に似るようになると、次第に不信感を抱くようになって。


 自分に似てないんじゃないかと言うようになったんだ。

 その言葉が、俺の日常を壊した。


 俺は父親が自分に似てないという度に何で似ないのよ!と母親に人目を忍んで八つ当たりのように叫ばれ、花瓶や皿やコップを顔に向かって思いっきり投げられたり、殴られたり蹴られたりするようになった。




 浮気を反省して父親とやり直そうと思ってた母さんからすれば、俺は邪魔で。父親と息子の繋がりがないことの証明で。最悪なお荷物でしかないから。それで俺を虐待するようになったんだ。