——プルルルル!!


 ポケットに入れていた携帯が鳴り、俺は慌ててライターを消し、煙草をベランダの床に落とした。

「ケホケホ、……はい」

 煙草をグシャグシャと踏んで火を消しながら、俺は通話に応じた。


《こんばんは、赤羽くん》


「……こんばんは、穂稀先生」



 通話相手の穂稀(ホマレ)先生は、空我の実の母親だ。空我には言ったことないけど、この人は日本で俺の主治医をしてくれている大事な先生だ。


 だから俺は、確かめなきゃいけない。この先生が、本当に空我に虐待してるのかどうかを……。


《はぁー。赤羽くん、もしかして、また煙草吸ってたね? やめてって何度も言ってるのに……》



 俺が挨拶すると、直ぐに先生は、そう言ってため息を吐いた。

大方咳き込んでたのに気づいたんだと思う。


「……どうせ俺、もうすぐ死ぬんですから。それなら、煙草なんて吸ってようと吸ってなかろうとあんま変わんないですよ」



 ……俺の寿命は、あと数ヶ月だ。俺はどうせ寿命が数ヶ月なら、死ぬ直前だけでもあいつらと過ごしたいと思って、フランスから帰ってきたんだ。

……最先端の医療を受けたのは嘘ではない。確かに俺は、足の治療ですごい苦労した。でも、足以外のとこは、治療しても全く治んないくらい俺の病気は悪化してる。……でも、そんなの言えるはずもなくて、隠すしかなかった。


……言えるわけねぇよ、虐待されている奴に、自分がもうすぐ死ぬなんて話。