純恋を除く俺達の最寄り駅の路地裏にある、もう使われていない工場。いわゆる、廃ビル。





 それが亜空のたまり場だ。


「「「組長、お帰りなさい!!」」」




 1階の扉を両腕を使ってこじ開けた途端、下っ端の奴らの声が聞こえた。そいつらの声は、思わず耳鳴りがしそうなほどうるさかった。



「あぁ。……ただいま」



 声が無意識的に小さくなった。



 今まで毎日来てた癖に、突然何も言わず二週間もいなくなった俺を、おまえらはどうして、
こんなに笑って歓迎してんだよ……。





「組長!いやあ急に来なくなるから心配しましたよ?幹部の皆さんは訳ありだとかいって全然理由教えてくれませんし!」




 数十人もいる下っ端が左右の壁の前に1列で並んでいる所の右奥から現れた少女は、俺の腕を掴んで、そう叫んだ。



 桜色の肩近くまで真っ直ぐに伸びた、ショートカットに切り揃えられた髪。長いまつげ。大きくて愛らしい、子犬のような茶色い瞳。




「……桜桃」





 --野兎辺桜桃(ヤトベサクラ)


俺達のいない亜空を、ある男との共同作業でまとめてくれたであろうそいつは、直属の俺の弟子であり、
何だかんだすごく大事な奴でだった。