「……なぁ、金よこせよ」

 メガネのいかにも真面目そうな男に、加賀美怜央(かがみれお)は声をかけた。


「む、無理です!」

「……お前に拒否権なんてないんだよ」

 俺はそう言うと、煙草の煙をメガネの男にかけた。

「ゴホッ、ゴホッ!!」

 怜央はむせてる男の胸グラを掴んで、いう。

「さっさっと財布出せ」

 怯えてるのか、青白い顔をした目の前の男は、慌ててズボンの後ろポケットから財布を出し、怜央に手渡した。

 怜央は無言で開け、中を見る。

「おっ、四万あんじゃん」

 財布から四万円をとると、まるで悪いことをするのが楽しくてたまらないとでもいうかのように、怜央はいっそう顔を緩ませる。ろくに手入れされてなくて明らかに痛んでいる金髪の髪と八重歯が、よりいっそう怜央の悪さを引き立てていた。


「はい、あづの分」

 俺に二万を渡して、怜央は真底楽しそうに笑う。

「ん。サンキュー」

「そんじゃ、ありがとな、優等生くん」

 怜央は現金がからっきしなくなった財布を手渡すと、男の肩をポンポンと叩いた。

「……そんじゃ、次は誰狙う?」
 
「……誰でもいい、金持ってるやつなら」

 怜央の問いに、俺は素っ気なく答える。

「フッ、そうだな」

 そういって、怜央はまた楽しそうに悪い笑みを浮かべた。

 
 俺は、亜月空我(あづきくうが)。青の肩近くまで伸びた長髪と、柄の悪い釣り上がった瞳が特徴。




 ……あづってあだ名は、正直嫌いじゃない。むしろ好きだ。時々、ふざけてくうちゃんとか奴もいるから、それは嫌いだけど。




 空我とか、完全なるキラキラネームだよな。


 由来も検討も付かねぇし。
ま、どうせろくな由来じゃないんだろうけど。