それどころか眼も合わさなかった。

……龍と話さないのがこんなに淋しい事だなんて気付かなかった。

……龍……龍はどう思ってるんだろう。

少しは、少し位は淋しいって思ってくれているだろうか。

それとも、私の事なんてもう嫌になっちゃったんだろうか。

「ほら!早く!」

「あ、うん」

理沙の声で我に返り、私は半ば強引にトイレへと連行された。


゚*.。.*゚*.。.*゚


「美夜ちゃん!」

「石井くん!ごめんね、わざわざ」

正門で待っていると石井くんが道の向こう側から走ってきた。

目の前の道路はさほど道幅もなく、通行量も少ない。

たちまち私の前までやって来て足を止めると、石井くんは柔らかく微笑んだ。

「はい、これ」

「ありがとう!大切にしてるやつなの」

私がそう言って石井くんを見上げると、彼は軽く頷いた。

「知ってる。姉貴が驚いてたから。で、早く返してあげろって騒ぐから」

私は申し訳なく思って、口を開いた。

「ごめんね、気を使わせちゃったね」

すると石井くんは首を横に振った。

「いや、会う口実が出来て良かったって思ってる」

……え?

石井くんが真顔で私を見下ろす。

会う口実……。

「美夜ちゃん、俺」

その時だった。

「悪い、石井君。コイツは渡せないんだ」

低い声がしたかと思うと、私の腰に腕が回った。


《コイツは渡せないんだ》


……嘘。

私は……私はこの声を知っている。

筋肉の張った逞しいこの腕も。

多分、空耳じゃない。

それに、それに、この言葉は……前にも聞いた事がある。

キュッと胸が軋んで、その後に甘いフワフワしたもので一杯になるような感覚。

驚く石井くんに、声の主は更に続けた。

「ごめん。でも俺はもうコイツしかダメなんだ」

そう言うなり、私の手を握ると声の主は耳元で囁いた。

「好きだ。誰よりも強く」