「あなた……あの時の」

やだ……!

私は身を翻すと、行き交う人を縫うようにして逃げ出した。

最悪……最悪っ!

「おい、美夜、待てって!」

ヨリを戻したんだ。だからセンパイ彼女は龍のお母さんのお店にいたんだ。

絶対にそうだ。それしか考えられない。

「美夜っ!」

皆が振り返りそうなほどの声で龍が私を呼び、一際足音が響いた。

嫌だ、こないで。

その時だった。

「きゃっ……痛っ……」

「先輩、」

焦った龍の声に振り返ると、センパイ彼女がバランスを崩したのか地面に膝をついていた。

もしかしたらこっちに駆け出そうとした龍の腕を、タイミング悪く掴んで転んだのかもしれない。

「龍くん……痛い」

「……先輩、」

痛いと言いながら、先輩彼女が一瞬だけ私を見た気がした。

冷めきったような、侮蔑の色を浮かべた瞳。

その瞬間、私は分かった。

……センパイ彼女は……龍が好きなんだ。

それから、もっと気付いた。

私も、龍が好きだって。

苦しい。ちゃんと空気を吸えてないような感覚。

……怖い。凄く怖い。

だって龍は明日斗の親友だし、センパイ彼女と復活してるし、こんなの最悪じゃん。

苦しい、苦しい!

心臓が痛くて思わず胸に手を当てたまま、私は駅に向かって走った。