「最初は料理に興味なかったんだ」

長い指で品よくお箸を扱うと、龍も鶏ハムを口に運ぶ。

「ん、さすが母親」

コクン、と飲み込んで龍が続ける。

「うち、離婚家庭なんだ。親父の浮気が原因で。母親はなにも言わなかったけど、俺は知ってた」

「そう……」

「苦労しながら俺を育ててくれている母親を、大人になったら助けたかったんだ。最初はただそれだけだったけど……店手伝ってる内に好きになった」

「うん、うん」

「料理って…なんていうか無限なんだ。それに、素材を生かしながらどれだけ綺麗で喜ばれるものを作られるかとか、考えるのも楽しいし」

お弁当に視線を落とした龍の横顔が、いつもよりも素敵に見える。

……しっかりしてるなあ、龍は。

「まあ、先は長いからな。母親が手伝い不要だっつーなら別の道に進むし、今はそんな感じ」

言い終えると龍は、私の口元に鮭を混ぜこんだおにぎりを近付ける。

……これも美味しい。

「なんか……カッコいい」

私がそう言うと、龍がお箸を下げてこっちを見た。

「……惚れる?」

「あははっ…」

珍しい冗談だなって思って反射的に笑うと、眼に真剣な龍の顔が飛び込む。