「おっと!」

「あっ……!」

教室から出た瞬間ドカッと誰かにぶつかり、肩からスクバが滑り落ちた。

「美夜?さっき明日斗がひとりだったから、お前と行き違いになったのかと思っ……て……」

嫌だ…!龍だ。

慌てて顔を背けたけど、手遅れだった。

「美夜、待てよ」

「……大丈夫。なんでもない」

「おい、大丈夫じゃねーだろ。待てって!」

龍が素早く私の腕を掴んで引き寄せた。

見上げると、長身を屈めた龍が私を見つめている。

心配気に寄せた眉、切れ長の男らしい眼。

「もうやだっ……龍、助けてっ……」

もう、やだ。ホント、やだ。

「龍……もう私、頑張れないかも。明日斗がね、遠くに行っちゃうの。私から離れちゃうの」

「……美夜」

「苦しい。苦しくって死にそう。どうしたらイイのか分かんない」

そう言った私の後頭部に龍が手を回した。

トンと額が龍の胸に触れたとき、至近距離から低い声が響いた。

「そんなに辛いならもうやめろよ」

そう言った龍が小さく息をつく。

そりゃ龍にだって呆れられるよね。

でも、でも。

「やめ方なんて分かんないもん。好きな気持ちをどうやったらやめられるの」

「……」

龍はなにも答えなかった。

多分答えられなかったんだと思う。

だって、私達は二人とも辛い恋をしているんだもの。