だから俺はなにも言わずに美夜に背を向けた。

アホだな、美夜は。

明日斗に何人女がいると思ってんだよ。

いい加減、気付けよ。



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翌日。

「あー、永瀬龍(ながせりゅう)くん、永瀬龍くん、今すぐ牧瀬美夜の席まで来なさい」

……なんだよ。貴重な休み時間に。

一番後ろの席の俺に向かって、美夜が丸めた教科書でメガホンを作っている。

真っ直ぐ俺を見つめて。

明日斗とは離れてしまったけど、美夜とは二年から同じクラスだ。

「……なに」

ゆっくり立ち上がって美夜の席へ行くと、美夜は少し眉を寄せて俺を見上げた。

「龍。正直に言って。明日斗、浮気してるんでしょ」

うわ……今ごろかよ。

……コイツはやっぱアホだ。

……気付いてなかったんだ、やっぱ。

「……」

「もうっ、龍!聞いてる?!」

長い睫毛に囲まれた二重の大きな眼が、ムッとしている。

「知らねー」

「嘘」

「知らねって」

「ほんとに知らないなら、龍も知りたくない?明日斗が浮気してるのかどうか」