蓮さまは私から離れると、壁に掛けていた着物を手に取った。そして床で畳み始める。


「……大丈夫、いいんだ別に。踊りの稽古はさせられてるけど、俺はこの家の跡取りってわけじゃないから」


きちんと正座をして、テキパキと着物を畳む。部屋にはその布ずれの音だけが聞こえる。


「うちは代々、女系の一族で……俺には姉が二人いる。末っ子で男の俺なんて、特に必要の無いおまけみたいなもんなんだよ。だから結構自由にやらせてもらってる」


――――着物を畳みながら、蓮さまは話してくれた。


女系の一族というのはその呼び方の通り、女性が当主になる。だから蓮さまの家の女性は、結婚は婿養子をとるんだそうだ。

今のこの家『神楽』の当主で家元は蓮さまのお母さん。

そして年の離れた長女のお姉さん、百合さんがもう次の当主に決まっている。次女のお姉さん、椿さんは家は継がないが日舞の講師として家を支えているそうだ。