父は後妻を取っていない。


おそらく傍系の家から養子を取って家をつなぐのだろう。父は最後まで母を愛していたから。


もしくは、今はもう寺院に退いて余計な争いごとを避けた、父にとっては弟であり、わたくしにとっての叔父を還俗させるか。

情勢の読める、賢明で優秀なお方らしいから、叔父さまが有力候補かもしれない。


または、万が一わたくしが婿を迎えられたら、わたくし、わたくしの子どもという順に継承権が移る。無理だと思うけれど。


わたくしに与えられた小さな居場所は、屋敷の形をした、堅固で冷たい牢獄のようだった。


お父さまは悪くない。


いつも、堂々巡りの慰めを考える。


ちゃんと食事や住む場所を与えてくださっている。教育も充分受けさせてくださった。


ただ、会話がなかった。

目が合わなかった。

おまえを見ると彼女を思い出すから、と在りし日のお父さまはおっしゃった。


すまない、と。苦しそうに歪んだ横顔を覚えている。


屋敷に半ば幽閉のように連れられ、今日からここで暮らすようにと指示されて何年経った頃だっただろうか。


いつしか、公爵家のご令嬢は呪われていると噂が立った。


呪われた公爵令嬢。魔女。


近づけば自分も呪われると、屋敷にはほとんど人が寄りつかなくなった。


それをまるで他人事のように淡々と受け入れて、長い年月が経つ。